現役手術室看護師と視る ブラックぺアン〜その4〜

コラム

最新の治療とこれまでの医療

 どうも、ブラックぺアン第4話です。
前回は渡海先生はスナイプを使って手術を成功させ、さらに緊急の手術もスナイプを使用するという驚きの展開でしたね。最新の医療技術は患者さんの負担を減らし、さらに昨今の人員不足(医者不足)にも貢献してくれています。もちろん、新しい技術や器械に頼りっきりではなく、個々の技術やチームワークを高めていくことが重要であることは言うまでもありません。二つの両輪がしっかり噛み合って初めて最良の治療となることでしょう。

 さて、今回はどのようなびっくり医療が登場するのでしょうか。第4話スタートです。
 

第4話 スナイプ最終章完結

小さな命

スナイプ手術が成功したことで、東城大はスナイプ推進に舵を切りました。僧帽弁置換を容易に行うことができるのは大きな医療の進歩となります。

 そんな中「小春」ちゃんという僧帽弁閉鎖不全症を患った7歳の患者です。小春ちゃんは「血小板」と「凝固因子」が極度に少なく、「輸血アレルギー」に加え、「不規則抗体」もあり輸血困難な血液ということでした。多くの情報が出てきましたね、一つ一つ見ていきましょう。

血小板

 出血した血管に血小板が集まって血管壁の代わりの役割を務めます。血小板は仲間を呼んで周りの血小板を集め、出血を食い止めようとします。

凝固因子

 血液を固めて止血をするためのタンパク質です。血管が損傷した際、最初の凝固因子が活性化され、様々な凝固因子に反応がつながり(第Ⅰ〜XⅢ因子があります)、最終的にフィブリンの元であるフィブリノゲンがフィブリンに転換されます。
 このフィブリンは網目状の構造で、血液の色んな細胞を絡めて、損傷した血管に集まっている血小板にかかり出血点を塞ぎます。

輸血アレルギー

 輸血の副作用は軽いものから生命に関わる可能性のあるものがあります。比較的軽いアレルギー反応では、発疹や痒み、中等度では血圧低下などがあります。重篤のものではアナフィラキシーショックが挙げられます。アナフィラキシーでは血圧低下や咽頭腫脹による呼吸困難、顔面浮腫など生命に関わります。

不規則抗体

 基本的はA型やB型というよく耳にする抗原が赤血球に存在し、それに反応する規則抗体(抗A or 抗B)が血漿に存在します。自分と違った血液と接触すると、その抗原に抗体が反応し、攻撃して赤血球を破壊してしまいます(溶血)。この抗原はAやB以外にも多数の抗原が確認されていて、それらの抗原に対する抗体を「不規則抗体」といいます。
 つまり、この抗原・抗体が一致しない限りは、輸血した際に何かしらの拒否反応が起こりうるという事になります。

以上の点から、出血を避けれず輸血が必要不可欠な開心術では不可能というわけです。

スナイプの検証

 小春ちゃんの心臓は小さく、スナイプの開ける穴は12mmと小春ちゃんの心臓に対して大きいものとなっています。心尖部から刺入し、一寸もブレることなく心筋に触れないよう弁置換するのは、まさに至難の業ということです。

佐伯式とスナイプ手術

 感染性心内膜炎で急性のMRを引き起こした患者の緊急手術を行うことになりました。しかも弁の先に細菌の塊がついており、スナイプで弁置換を行なってしまうと、塊を潰してしまい身体中を細菌が流れてしまいます。
 佐伯先生が登場し、佐伯式を行います。「視界をクリアに、サクション追加の用意は!?」と発言が聞かれます。サクションとは吸引のことで、出血などを回収し術野を見やすくします。しかし、佐伯教授は「必要ない、この指が教えてくれる」と。まさに神の手ということですね。

光明

 高階先生は渡海先生に何か手がないか助けを求めます。渡海先生は「そもそもそのスナイプじゃ不可能なんだよ」と。「そいつの欠点は図体がでかいとこだ」とあるように、やはり小春ちゃんの心臓に対してスナイプは大きく、少しのズレで血管を傷つけてしまうのでしょう。
 そこで、「血管の中を通ればいいだろ」とカテーテル治療を示唆します。そのカテーテルの先にスナイプの人工弁装着システムをつけるという訳です。

 現在、カテーテルでの人工弁置換は実際に行われています。ドラマと違い、僧帽弁ではなく大動脈弁置換をカテーテルにて行うTAVI(経カテーテル的大動脈弁置換術)と呼ばれる術式です。これは鼠径の動脈を穿刺しカテーテルを挿入、大動脈弁を置換します。
 ドラマではこれを僧帽弁で行おうという訳ですね。

 しかし、ドラマでは経静脈アプローチで話が進んでいます。静脈は右心房に帰るため、左心房と左心室の弁である僧帽弁には辿りつきません。(経動脈的アプローチならば、左心房に辿りつくため、動脈穿刺が現実的だと感じました。)
 ですが、小春ちゃんの心臓は右心房と左心房の間の壁(中隔)に穴が空いている状態だと言います。これは心房中隔欠損(または卵円孔開存症)と呼ばれます。一般的に、胎児期では母親の血液が全身に回るように右心房と左心房の間に穴が空いています(卵円孔)。これは大人になるにつれ自然と塞がるのですが、小春ちゃんは完全には塞がってないようです。この穴を通すことで、僧帽弁にたどり着く算段という訳です。ただし、いくらカテーテルとはいえ、心房に空いた小さな穴を盲目的に通すのは、至難の業であり、まさに渡海先生にしかできない芸当という訳ですね。

カテーテルスナイプ手術

 渡海先生執刀の元、手術が始まりました。手術はイメージと呼ばれる透視(放射線)装置を使用して行います。映像では患者の頭側にあるビニールで覆われている大きな機械になります。この透視装置を用いることで、渡海先生達が実際に見ているような、患者の骨や心臓の陰影が表示され手術を行うことができるのです。
 手術は順調に進み、スナイプカテーテルは右心房にまで辿り着きました。中隔の穴が最も開くタイミングでカテを進めなければならないのですが、他の場所に接触してしまうと「電動路障害」が起きてしまうとありました。「電動路障害」とは、心臓には心拍リズムを発生させる微小な電気刺激経路があります。刺激電動系と呼ばれますが、その初めのリズム電気を発する「洞房結節」は右心房に存在するため、下手に刺激してしまうと心臓のリズムが乱れ、全身に血液を上手く送れず全身状態が悪化する危険があるのです。

 これらの様々な問題を、渡海先生は高階先生の合図により中隔を通過し、無事僧帽弁置換を行うのでした。

まとめ

 今回は渡海先生と高階先生のコンビにより、小さな命に光を差すことができましたね。最新の医療技術と長年使われてきた医療の組み合わせにより、困難な症例を乗り越えました。
 現在も最新の医療技術や新しい術式、新たな機械が登場し、目まぐるしく世界が変化していきます。それに乗り遅れないよう、私たち医療職者は日々精進しなくてはなりません。ですが、今回のように今までの医療の良いところは活かしつつ、患者さんにとっての最善を模索することも大切だと思いました。

 さて、いかがだったでしょうか。今回もドキドキの展開が続きましたね。今後の渡海先生の活躍に期待です。

 最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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