現役手術室看護師と視る! ブラックペアン 〜その1〜 

コラム

医療ドラマ ブラックぺアンをより楽しもう!

みなさん、ドラマ ブラックぺアンをご存知でしょうか。R6年にはブラックぺアン2も放送され、人気の医療ドラマです。


 しかし、手術の医療ドラマは専門用語が多くてなかなか内容が入ってこない、なんて少しお困りの方もいらっしゃると思います。また、あのセリフの意味はどうゆう事だったんだろう、なんて疑問や、もっと手術室の知識があればより楽しめるんじゃないだろうか、なんて思っている方もいるのではないでしょうか。


 そこで、現役手術室看護師がブラックぺアンの専門用語や手術器具、実際の医療現場の状況を踏まえながらわかりやすく解説していこうと思います。
 これを読めば、より深く、より面白く、ブラックぺアンを楽しめること間違いなしです!

 早速第一話から見ていきましょう!

第1話 新・ダークヒーロー

最初の手術

佐伯式 僧帽弁手術

 第1話ですが、早速佐伯教授が開心術を行いますね。僧帽弁の手術をオンポンプ・オンビートで行う、いわゆる佐伯式が披露される場面です。オンポンプというのは、人工心肺をいつでも回せるように、身体に血液を送る管「送血管」と身体から血液を抜く「抜血管」を挿入している状態です。こうすることで人工心肺を用いて血液を体外へ導き酸素化を図りつつ、ポンピングによって心臓の負担を減らすことができます。
 そして、基本的には心臓を開ける手術はそもそも心臓を止めなければいけません。よって、心臓の栄養血管である冠動脈に心筋保護液と言われるものを流し、心停止させます。しかし、佐伯式は心停止をあえてせず、「オンビート」つまり心臓が動いたまま手術を行うという、なんとも天才外科医のみ許された術式です。

大動脈解離

 その神業的所業をやってのける佐伯教授の手術中、緊急手術の一報が入ってきます。「大動脈解離」を起こした患者さんのようです。大動脈解離とは、心臓から出る大きな動脈「上行・弓部・下降大動脈」のどこかが解離、つまり内膜が裂けた状態です。そのまま放置していたら血管の裂け目が広がり、血管が破裂してしまう危険があります。そのため、解離した血管を「人工血管」に置換(交換)しなければいけません。この置換する場所で手術範囲が決まってきます。映像を見ていた佐伯教授は、上行の裂け目を見て上行置換を指示したのですね。

クーリー鉤

 しかし、上行置換後、遮断鉗子を外すと出血!スタッフ達は慌てて止血・輸血・処置に急ぎます。そんな中、猫田看護師は「美和ちゃん、クーリー鉤を用意しておいて」と言い残し、渡海先生に連絡をとりに向かいました。さて、クーリー鉤とはなんでしょうか。実は第一オペ室であった佐伯教授の僧帽弁の手術でチラッと出てきています。「ドベイキー、横山にクーリー鉤」と言ったのを覚えているでしょうか。そう、僧帽弁の手術で使うものです。僧帽弁は左房を開けて手術をするのですが、そもそも左房・左室は身体の背側になり、とても視野が悪いです。そのため、この小さな熊手のような器械を使い、左房を広げて視野を出す役割があります。ちなみにドベイキーとは、細長い鑷子(せっし)、トングのようなもので、心臓手術では基本の器械になります。
 

 クーリー鉤を出した猫田看護師は「そんなものは必要ない!」と言われますが、鼻で笑ってましたね、「まるで何もわかってない」と言わんばかりに笑。流石にいち看護師ができる芸当ではありませんので、そこはドラマかなという印象ですね。

 そんな中、ついに真打登場、渡海先生のお出ましです。術野を見るなり「どうして上行置換だけなんだ?」と一言。「基部の破裂も教授の指示か」と。佐伯教授はモニターの死角せいで大動脈基部の裂け目を見逃してしまっていたようです。大動脈基部とは、大動脈の付け根、冠動脈が出ているあたりになります。渡海先生の言い方は悪いですが、佐伯教授の指示を鵜呑みにして、しっかりと解離部のエントリーを確認しなかった横山先生も悪いですね・・・。

 大動脈基部の再建は、バルサルバ洞と呼ばれる大動脈弁周囲から、冠動脈を一旦切り離し再び人工血管に吻合すると言う、ものすごく大変な手術です。患者の弁の状態で、人工血管に人工弁を逢着しそれを置換するベントールや、自己弁温存型大動脈基部置換(リモデリング法orリインプランテーション法)があり、どれも時間がかかる難易度の高い手術になります。それを予定外で、しかも破裂し出血した状態で手術を行なうのは、さすが渡海先生としか言いようがありません(さすがドラマですね)。

 そして基部再建だけに終わらず、僧帽弁の手術を行うというのです。ここでようやく伏線回収ですね、クーリー鉤の出番という訳です。猫田看護師はこうなることを予測していたようですが、患者の現病歴や心臓の状態をしっていなければ到底できることではありません。渡海先生もすごいですが、猫田看護師が一体何者なのか、この一話で私はものすごく気になりました。
 渡海先生も佐伯式で僧帽弁手術を行い、それを2時間50分で終えました。佐伯教授は3時間10分で、それでもものすごく早いですが、渡海先生は基部置換+僧帽弁手術のため、より複雑な手術を短時間で終わらせたことになります。正直僧帽弁の手術だけでも通常なら5〜6時間はかかるため、いかに2人の先生がゴッドハンドかがわかりますね。

第二の手術

スナイプ

 さて、次の手術ですが、ライバルの帝華大からの刺客「高階」先生が行う「スナイプ」を使用したオフポンプ僧帽弁置換術になります。スナイプとは、ドラマオリジナルの医療器具であり、現医療においてそのような器具は存在しません。原理はドラマで説明されている通り、正中開胸せずともほんの数cmの切開により経心尖部アプローチにて僧帽弁置換を行うことができます。いやあ、これが本当に現実のものとなればものすごい画期的な治療法となると思います。まあ、ドラマみた限りであれば、まず患者の弁のサイズを測ったりすることなく、すでにスナイプに弁がセッティングされてあったようなので、もう少し深掘りする必要があるなとは感じました。個人個人体格差があるように、弁のサイズも人によって異なるので、サイズを測り人工弁を出し、スナイプにセットする描写が欲しかったですね。

 スナイプの手術は一度渡海先生に止められましたが、佐伯教授の許可により実行されました。不穏な空気が漂いますが、これで一安心ですね。

脾動脈瘤破裂

 しかし安心したのも束の間、術後患者が目覚めた途端急変します。渡海先生は「腹ん中は大出血だ」「ポンコツの弁に最新の弁入れてみろよ一気に血の回りがよくなって他のところに支障が出ることぐらいわかるだろ、だから俺は止めたんだよ!」
 スナイプによって心臓の機能が著しく回復した結果、全身の循環がよくなりました。しかし、そのことによって、動脈瘤(血管の壁が薄くなりコブのように膨らむ)にも血液が行き渡り、結果的に破裂してしまったようです。腹部のCTをしっかり見て精査していればこのような事態は予測できたはずですが、高階先生はスナイプ手術を勧めることばかりに頭がいっぱいで、見逃してしまったのですね。

 緊急手術を実施しますが、高階先生は出血が多すぎて手も足も出ません。「4−0!(針糸のことです)」と器械出しに指示を出しますが、このような経験が乏しいのか震えて処置が行えません。研修医の世良先生の決死の説得により渡海先生が止血を行います。出血点がわからなければ、その場所を持ち上げるというのはなかなかの荒療治ですが、手早く縫合し止血を完了させました。まさに神業です。

 佐伯教授はこうなることを予測していたようで、高階先生を手懐けるためだったみたいですね。

 そして最後に渡海先生が見つめる胸部レントゲン写真、そこにはペアンの影、それが何を意味するのか、次回も乞うご期待です。

まとめ

 一話から様々な専門用語が飛び交っていましたがいかがだったでしょうか。ドラマとしてしっかり説明してある部分もあり、細かい部分はなんとなくでもいいですが、より深く知ることで面白さが何倍にもなると思います。今回説明した部分のおさらいですが

 佐伯式僧帽弁手術 :
心臓を動かしたまま僧帽弁形成を行う

 クーリー鉤    :
 僧帽弁手術に使用する器械

 大動脈解離    :
 大動脈血管の内膜が裂け、破裂の危険性がある

 上行置換・基部置換:
 大動脈を人工血管に置換する

 スナイプ     :
 経心尖部アプローチの僧帽弁置換デバイス

 脾動脈破裂    :
 脾臓の栄養血管である動脈瘤の破裂

内容盛りだくさんでお送りしましたが、不明な点やより詳細に知りたいと思った点などがありましたらコメント下さい。もちろん感想やご指摘もお待ちしております。

最後までお読み下さりありがとうございました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました